2011-03-15

未来予測は確率分布

金曜日に大地震があって、土日は休み、月と火(今日)はもともと有給休暇。明日からは仕事が始まって、いま考えていることを忘れてしまいそうなので、書き残しておこうと思います。


福島の原発が、地震の被害を受けています。で、私は大学院で原子力工学を専攻しました。それで、知人が一部の報道の情報と意見をもとに信じている「状況」と、私なりに判断した「状況」に大きな差があることに気づきました。それで、いやそういうことじゃなくってね、とか、あの記者の人は怒鳴ってるけどね、とか補足をすることになったわけです。


もともと原子力のことを書こうかと思ってたんですが、メディアが、データをわかり易くして、受け手にとって意味ある情報として伝える、ということをやってないとか、そもそも原発とはだなとかいう話は、すでに存在しているので置いておきます。核となる問題のひとつは「見積り」や「予測」に対する、不適切な要求である、という仮説です。


枝野官房長官が「海水入れる。現時点では健康に影響はない。万が一に備えて〇〇km の住人は避難を」みたいなことを言って、そのたびに「◯◯km がやばいのか?」「いや、いまは大丈夫だけど」「じゃあなんで?」「だから念の為に」みたいなやりとりがありました。


たぶん受け取り側としては、確定した未来の情報が欲しいのだと思います。原子炉は大丈夫なのか? 避難する必要があるのかないのか? イソジン飲まないといけないのか(バツゲームかよ)?


しかし残念ながら未来の情報を、確定したものとして伝えられないことって多々あるのです。想定通りに回数を注入できれば、それでコトはおさまります。でも、内部のパイプが壊れてて注入できないとか、外部から確認できなかった現象が実は起こっていたとか、また地震がくるとか、作業員が怪我するとか、ポンプが壊れるとか、があれば、海水注入作戦が伸びたり、やばくなるまえに避難が必要になったりするわけです。


よくよく答えられて、現時点での状況から考えて、海水注入4時間でおわる確率が75%、6時間かかる確率が20%。注入できた場合でも、温度が下がらない確率が 30%...。とか。ここまで管理できてたら、非常時としては何ら問題ないかと。政府の判断根拠は知りませんが、その4時間の作業中に、つぎのやばい事態にそなえてあらかじめ20km から待避させよう、だったら間に合う、ってことかな、と想像しています。


原子力だと話がややこしいですか。だったら天気予報はどうでしょう。降水確率80%っていうのは、「降水確率80%と予測された日の、80%が降る(これにも定義があるんでしょう)」ってことです。ふらない場合だって当然ある。


家から会社まで何分かかるか、だってそうです。90% の確率で30分で到着、5%で40分。でもたまーに電車が遅れたりするから、0.0001%くらいで着かないとか。


システムでトラブルが起こったとき、どんくらいで修復できるか?と聞かれます。あるいは、新機能追加やバグ修正にどのくらいかかるか、と。そのときだって1時間で終わる確率が50%、2時間なら...とかじゃないでしょうか。慣れていれば、もちろん、この幅は小さくなります。


で、言い古されたところに行き着くのですが、「見積り」と「コミットメント」とは違うのです。見積りは確率分布なんです。原発のエンジニアが正確に答えようとすればするほど、いろんな可能性とその確率が出てきます。晴れると思ってたら雨が振って服が濡れたとは、事の大きさが違うので「あらゆる事態を想定」することになります。その結果あらかじめ、避難勧告を出します。海水注入でほぼ解決する状態だったとしても。


※ ほんとは、発生確率だけじゃなくて、その損害を掛けた、リスクエクスポージャも重要ですが、焦点はそこではないので割愛。


確率分布を発信する側としても、受信する側としても、こういう考え方に慣れないといけないなと思います。慣れて、うまく使いこなせるように。明日から仕事再開です。見積りや仕様策定の仕事があります。この状況を冷静に見ることができた、非番の2日間を活かしたいと思いました。


ところで、枝野は寝ろ。あと、付加価値を出せないメディアは、できもしないことを無理にしなくていいので、政府や東電が発表した内容を加工せずに流していだだければと切に願う。情報伝達のインフラを持っているっていうのが、現時点で最大の強みなんですから。